プロローグ 2


ラスリスはトマトスープのパスタと、甘い酒を一杯注文すると、おとなしく食事を始めた。背後ではナイツ達が馬鹿でどうしようもない男の会話を繰り広げていた。
 食事を終え、ため息混じりに酒を進めていたラスリスの鎖が突然引っ張られた。
 それにムッとした表情で振りかえると、真剣な表情をしたサファルが居た。ナイツ達の席より少し離れており、今まで居たと思われるテーブルを見ると幾つもの開いたグラスが目に入った。
 ラスリスはさらに鎖を引っ張られてサファルの近くへと仕方なしに歩いていった。
 と、サファルに腕を捕まれ、乱暴に引き寄せられる。サファルの体からさわやかな香水がラスリスの鼻をくすぐる。サファルの体が温まったため、香りがわかりやすくなったのだろう。
 ラスリスが、「甘い香り?」と考えるよりも、左腕の痛みに目を丸くする。
 サファルはラスリスの左腕を背中に回して鎖を巻きつけていた。
「なっ?」
 ラスリスは驚きの表情を浮かべ、うわずった声をあげた。
「や、やっ!」
 ラスリスの左の胸を、サファルの左手が掴んでいた。
「なにすんのよっ!」
 開いた右手で何とかサファルの腕に爪を立てるが、ちっとも効果を成していなかった。
「お、始めたな、エロサファル。おお、意外と胸のデカイ娘だなぁ」
 酔っ払ったナイツの一人がそう言って下品に笑う。
 それにまったく反応を示さず、サファルは次にラスリスの腰に手を滑らせた。
「あ、あんまりふざけた真似しないでよっ」
 ラスリスは恥ずかしさで顔を真っ赤にする。だがそれをも無視してサファルはラスリスの腰を撫で、さらに太股をゆっくりと撫でる。
「おいおいサファル。部屋へ行ってやってくれないか? お前が仏頂面して女とヤル所なぞ見たくない」
 ドーファがそう言い、楽しんで来いと言わんばかりに二階へと続く階段を顎でさす。
 サファルはラスリスを抱き上げて深く礼をすると、短く詠唱した。
 次の瞬間に、ラスリスはベッドの上に体を投げ出されていた。
 さらに、サファルの体が上に乗っかってきて上着を脱がされた。
「な、なによぉ! 最低! ナイツの癖して!!」
 悪態をつこうと言葉を探すラスリス。だがサファルは動じた様子を見せずに、ラスリスの胸に手をやる。
「やめてったら!」
 サファルの手を引きはがそうとするが、上に乗られたままではうまく逃げ出すことができない。
 泣きそうになりながら、ラスリスは抵抗した。
 と、サファルの手がラスリスの太股を滑った。そしてブーツを手際良く脱がす。
 そして、耳元でささやいた。
「おとなしくしていろ」
 脅迫じみた声に、一瞬体を震わせるも、ラスリスは抵抗をやめようとしなかった。
 蹴りを入れようと、ラスリスは右足に力を込めた。
 だが、空しくサファルに押さえ込められ――さらに足に激痛を覚えてもだえた。
「だから、おとなしくしていろと……」
 サファルは短く詠唱して、ラスリスのすりむけた右足を触った。スッと痛みが遠のき、ラスリスは軽く目をつぶった。
 サファルの手が再び体を這って、ラスリスは目を大きく開けた。
「盗賊をなめないで!」
 ラスリスは力を緩めたサファルの横っ腹に膝を叩き込んだ。グッ、とくぐもった声をあげるサファル。ラスリスはすかさずサファルから逃げ出し、窓へと走る。
「AIR WHIPS」
 なにかがラスリスの体に巻きつき、動きを封じた。
「や、やめてよぅ……もう逃げたりしないから」
 ベッドに押し付けられ、サファルの険しい顔を見て、ラスリスは泣きそうになりながら言った。
 サファルはラスリスのトップスのすそから手を入れて、直に乳房を触った。
 ラスリスは下唇を噛んだ。
「あった……?」
 サファルがそう呟き、次いで前を勢い良く開けた。ラスリスの白い胸が露になり、ラスリスは思わず顔をそむけた。
 サファルはそんなラスリスを気にもせず、上着を脱ぎ、手早く服を脱いだ。
「なっ……」
 ラスリスは、サファルの裸の上体を見て息を飲んだ。
「なに、それ……?」
 サファルは答えるより、手をラスリスの胸へと伸ばした。サファルの手が触れると、ラスリスの胸の中心が光った。涼やかな青い光。
 それと同時に、サファルの胸に埋まっている石が赤く光った。
「共鳴しているな。呪いの一種ではないのか? 寄生しているのか?」
 サファルは立ちあがり、顎に手をやって考え込む。ラスリスはその間に露になっていた胸をしまってベッドの上に座り込んだ。そして、自分の胸元に目を落とす。先ほどまで光を放っていた場所も、今は普通の肌だ。
「その石、どこで手に入れた?」
「……これ、石なの?」
 ラスリスはサファルを見上げ、逆に質問を返した。サファルは軽くうなずき、ラスリスに水を注いで渡した。更に自分の分もついでに注ぎ、一口飲んだ後答えた。
「そうだ。数年前に赤い石に触れたときに、俺は呪われた」
「呪われたって?」
 ラスリスの問いに、サファルはカーテンを開けてから答えた。
「少なくとも俺はそう思っている。今のところ変わったことはないが、確実に心臓と結びついている。そう感じる。お前はどうだ?」
「そう言われてもなぁ……特に今までと変わったことはないけど? でも、いつのまにかこんな石……」
 ラスリスは、自分の胸の谷間を見つめた。そこにサファルの手が伸びた。すると、ラスリスの胸が淡く光る。
「やはり共鳴しているな。それで、どこで手に入れた」
 ラスリスは少しの間記憶を探った。
「あ」
 ラスリスは思い起こしたように辺りを探し始める。
「ないないないない! って、もしかしてアレ?」
 壁の中にあった部屋で見つけた青い石。
 少し不思議な雰囲気のあった石ではあったが……
「あたし呪われちゃったの?」
「思い当たる節があるんだな」
 サファルの言葉に、ラスリスはうなずいた。
「魔犬に追われる前に居た部屋にあったのよ。それを胸にしまったんだけど……」
「そうか。一度俺と一緒に来い。一度司祭様に見てもらおう」
「司祭様って?」
 ラスリスが首をかしげると、サファルはすぐ横に座って答えた。
「ナイツギルドの総取締だ。魔法力の開発の第一人者だ。呪いを解くか、もしくは方法ぐらいはわかるかも知れない」
 サファルは言いながらラスリスの髪に触れる。かってに髪止めを外し、撫でる。
「な、なに?」
「さっきはすまない。俺も真剣だったから……」
 サファルは言いつつラスリスの頬を触った。そして軽く頬にキスをする。
「おやすみ、ラスリス。どうした、変な顔をして」
「もしかして、一緒に寝るの?」
 ラスリスは思いっきり嫌そうな顔をしていた。サファルは目を丸くして首をかしげた。
「あまり良い給料をもらっているわけではないから、もう一部屋取る余裕がなくてね」
 サファルはそう言ってラスリスの横に寝転がる。
「そうじゃなくて! どうして……」
 ラスリスはそう言って自分の頬に触った。
「挨拶だが?」
 そう答えてあくびを一つし、目をつぶる。
「むむむっ、あたしって意外と魅力なし? ま、確かに女の人には苦労なさそうな顔してるけどさ」
 ラスリスはぽつりと言うと、サファルの反対側へと身を滑りこませた。
「んーあったかい体」
 ラスリスはサファルの体に抱きつく。それに対してのサファルの答えはなかった。
「逃げちゃおっかな〜」
 コソコソとベッドを抜け出そうとしたラスリスを、サファルが捕まえた。そして抱き寄せ、太股に手を滑らせた。
「女の人にはとても苦労させられているよ。人の体を触っておいて後のことを考えてくれない。そりゃ、俺も触ったけど」
「……真面目そうな顔してるのにね」
 ラスリスはにこりと笑って言った。
「しかたないだろ、生まれ持った顔だ。あんまり人を見かけで判断するな」
 サファルは少し怒ったような口調で言った。ラスリスは小さく笑いながら言う。
「はいはい、上司や仲間の前の前ではクソ真面目な顔をしているのに、酒に酔ったふりして、女の体を触りまくるってね――このムッツリスケベ」
 ラスリスは、太股を撫でているサファルの手の甲をつねった。
「そう言うなよ。体が正直なだけだ。んで、彼氏とかはいるのか? いるんだったら、遠慮してお……」
「いなーいよっ。こう見えても忙しいからさ、何年も彼氏なんていないよ」
「そうか。じゃあ、触りまくってゴメンなさい、って俺が彼氏に謝る必要もないんだな」
 サファルは安心したかのような表情を浮かべた。クソ真面目な顔をして言った為か、ラスリスが声をあげて笑う。
 笑い終えたところで、ベッドに横になり、大あくびをした。
「もう遅いから寝よ寝よっ。サファル……触るのはやめてよ。あんまりぺタペタ触ってると、逆に嫌われちゃうわよ」
 ラスリスにそう一喝されて、サファルは静かになった。やがてサファルもベッドに横になるとかなり経ってから寝息を立て始めた。



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