3 鑑定 4


 サファルはカサカサと言う気配で目を覚ました。そして、自分が草の上に倒れていた事に気づいた。身を起し、辺りを伺う。
「ラスリス?」
 サファルは音がする方に声を投げかけた。だが、返答はない。
 サファルは起き上がり、草を払うなどして体裁を整えた。それから改めて辺りを見まわした。先程の音は、どうやら通りすがりの小動物が立てていたものらしい。ピンクの鼻づらが一瞬覗いたが、それ以降音は通り過ぎていった。
「薄情な奴。俺を置いていったのか」
 サファルはそう言いながら本の存在を確認した。一応存在していた。少し寝心地が悪かったのは、丁度横腹に角が当たっていたせいだ、とサファルは呟き、ため息をついた。
「少し、孤独だな。俺はこれからどうすればいい? あの父上に助けを乞うのか? だが、所詮俺は父上に気に入られていない。ナイツに引き渡されるな」
 サファルは一人寂しそうに呟いて、仰向けになった。
「朝日が昇ったのは覚えているから……まだ昼前か」
 木々の合間からこぼれる空の青が、目に染みるのか、サファルは目を閉じた。
「いっそ、ここで朽ち果てるのを定めとするか」
 サファルはそう言って、微かに笑った。
「なーにブルーになってるの?」
 突如影が出来て、ラスリスの声がした。
 サファルは手を伸ばし、ラスリスを抱き寄せていた。慌てふためくラスリスの声を無視し、自分の胸に顔を埋めさせる。そして音がするほど抱きしめた。
「見捨てられたかと思ってた」
 サファルはしばらく時を置いて、そう言った。ラスリスの指がサファルの髪にからんだ。
「どうしたの、お坊ちゃま。一人で寂しかった?」
 少しからかうような言葉に、サファルは更にきつく抱きしめて応えた。
「当たり前だ。俺だって人間だ。心細い時がある」
 サファルはそう言うや否や、ラスリスとの体位を入れ替えた。ラスリスが何かを言う前に、その唇に自分の唇を重ねあわせていた。長く、そしてラスリスを奪い取るように。
 ラスリスは何か抵抗するわけでもなくサファルの行為を黙って受け止めていた。と言うよりも突き返す事が出来なかったかも知れない。
 唇だけでは置いていかれたと感じた寂しさを許すことが出来なかったのか、サファルはラスリスの胸に手を忍ばせていた。
 少し抵抗があるのか、ラスリスは初めてサファルを制した。
「ちょ、サファル……背中痛いし、日が昇ってる最中だし、こんなところじゃ嫌だし」
「分かってる。最初ぐらい雰囲気のあるところでしてやる。だが、そうも言ってられない。長く触れすぎたみたいだ」
 すぐ近くで、鳥が一斉に飛び立った。それも四方八方から、まるでラスリスとサファルを取り囲むようにして飛び立った。
 ラスリスは怯えた表情を浮かべ、サファルの腕に指を食いこませた。
 サファルはラスリスの手をゆっくりと離させた。
「村までは?」
「そんなに遠くないよ。歩いて一時間ぐらい」
 ラスリスはそう答えて、身を起した。サファルはラスリスの腕を自分の首に絡まさせた。
「方向はあっちだな? それぐらいの距離ならば瞬間移動させることが出来るかも知れない。ところで村の状況はわかるか? 魔封じが施されているとか」
 ラスリスは首を振った。
「じゃあ、一気に飛ぶ」
「それはダメっ」
 ラスリスは慌てて止めた。
「魔封じされてないって事は、石の在りかを嗅ぎつけられることになる!」
「じゃあ、どうしろと!」
 サファルはそう言ってラスリスを睨んだ。
 睨みあう二人に、音は徐々に近づいてきていいた。
「村にまではついてこないだろ。ついてきても村の連中と一緒なら……」
 そう言ったサファルの口を、ラスリスは制止させた。
「ナイツも盗賊もいない、森民の村なの。沢山の魔物に襲われたら逃げるのが精一杯なの!」
 怒鳴られ、サファルは何も答えなかった。代わりに眉間に深くしわを寄せ、最も音が近づいている方向へと目を向けた。
 目の前に、灰色の干からびたような鱗が見え、その先からは鈍く光る鋭い爪が伸びていた。大きく振りかざされたその爪を避けるためか、二人は本能的に目をつぶって顔をそむけた。




[PR]動画